若かりしころの羽生善治竜王が新人王戦決勝でみせた強者の心の余裕を感じさせる一手とは?【将棋の格言】

今回も2つの格言を見ていきます。

・角換わり将棋に5筋を突くな
・手のない時には端歩を突け

角換わり将棋に5筋を突くな

まずは「角換わり将棋に5筋を突くな」から。「角交換将棋に5筋を突くな」と言うこともあります。なぜ角換わり将棋に5筋の歩を突くとまずいのかは第1図を見て下さい。

【第1図】

ここで▲5六歩を突くと、△3九角から馬を作る筋があります。無条件に馬を作られると後手がポイントをあげた格好で先手としては面白くありません。先に▲6六歩を突くなどすればすぐに馬を作られることはありませんが、駒組みが不自由になってしまいます。それなら5筋は突かない方が良いとのことです。

【第2図は▲8八玉まで】

続いて第2図は角交換振り飛車の一例です。先手はいわゆる「腰掛け銀」で5筋を突かない駒組みの代表例で、居飛車でも対振り飛車のどちらでも有力な作戦です。5筋を突かないことによって、△3九角の筋がないため角の打ち込みに強いことがおわかりでしょう。

一方の後手は5筋を突いていますが、2一飛+4二金の形がバランス良く、やはり角を打ち込まれる心配はありません。角を打ち込まれる心配がない一段飛車の場合は、5筋を突きやすいと言えます。

【第3図は▲6八銀右まで】

第3図は5筋を突いてある形が負担になった例です。江戸時代の御城将棋の実戦ですが、第3図の▲6八銀右は落手です。

ここでは△8六歩が機敏な一手で、▲同歩には△8五歩の継ぎ歩が効果的な攻めになります。実戦は▲8六同銀ですが、△3九角▲2六飛△6六角成で馬を作ることができ、後手成功です。手筋や格言を組み合わせて手順を読むのが実戦の考え方です。

手のない時には端歩を突け

次の「手のない時には端歩を突け」は「端歩は心の余裕」ということもあります。

駒組みが落ち着いたところで端歩を突いておくという意味ですが、これも今では古くなった格言の一つです。

【第4図は△9五歩まで】

第4図はタイトル戦でも出た将棋です。初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△9五歩と、序盤早々に端の位を取りました。端の位を主張する作戦で、「手のない時には」どころか、端歩を最優先しました。これも将棋観が変わったことによるものでしょう。

逆に端歩を突かない方が良いこともあります。

・端歩を突き合って相手の方が得になる場合
・突いた端が争点になって仕掛けを与えてしまう場合
・穴熊の玉側の端歩

これらの場合は端歩を突いたことがマイナスになってしまうことがあるので注意しましょう。格言も時と場合によりけりです。

【第5図は△6四飛まで】

第5図は若かりしころの▲羽生善治─△森内俊之戦(新人王戦決勝)です。ここで▲9六歩がまさに強者の心の余裕を感じさせる手渡し。すでに戦いが始まって忙しい局面で、この手渡しを指せる人はそうそういないでしょう。

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