里見香奈VS上田初美。4年前に名局賞を受賞した二人の対決。女流名人戦、五番勝負の展望は?

女流名人戦の挑戦者には4期ぶりに上田初美女流三段が名乗りを挙げた。春の女流王位戦では岩根忍女流三段、秋の女流王将戦では香川愛生女流三段、倉敷藤花戦では室谷由紀女流二段、女流王座戦では加藤桃子女王と、今年度の里見は毎回違う相手とタイトル戦を戦うことになる。

混戦のリーグ戦で、最後はプレーオフの可能性も高かったが、唯一2敗をキープした上田が挑戦。里見と上田は4年前に女流名人戦、マイナビ女子オープンでダブルタイトル戦を戦っている。対戦成績は里見から見て11勝2敗と大きく差がついている。とはいえ最後の対戦も4年前のタイトル戦なので、両者とも気にしていないだろう。

名局賞受賞のシリーズ

第39期女流名人位戦での激闘は今でも印象深い。女流四冠の里見に、当時女王の上田が挑戦したシリーズだ。それまでタイトル戦では無敗、五番勝負ではフルセットにすら持ち込ませなかった里見に対し、上田が2勝し、初めて第5局へともつれ込んだ。関西将棋会館で行われた最終局は上田得意の四間飛車穴熊に、里見は銀冠で対抗。双方チャンスのあるハイレベルな熱戦のなかで迎えたのが図の局面。

【図は106手目△2九飛成まで】

ここから▲8五金△8七銀▲同銀△同桂成▲6三角がギリギリのしのぎ。後手の穴熊も深いが、うまく体を入れ替えた格好だ。以下も上田の粘りを振り切り、里見が勝ち切っている。敗れた上田だが、最強の第一人者を追い詰めて評価を上げた。

この第5局はその年の将棋大賞で名局賞特別賞を受賞している。女流棋戦の対局ではこれまでのところ唯一の受賞だ。女流棋士のレベルもここまで高くなった、と世に知らしめた一戦だ。これを機にぜひ一度並べなおしていただきたい。棋譜はこちら

年度最高勝率の大記録達成なるか

里見には年度最高勝率の記録更新も懸かっている。過去最高は清水市代女流六段の持つ0.8965(26勝3敗)。昨年の里見も年明けまで記録更新の期待される成績だったが、女流名人戦で清水に2敗を喫し歴代2位の勝率に終わった。今期の里見はここまで18勝1敗(0.9473)。残す対局は女流名人戦とマイナビ女子オープンの準決勝以降のみ。これらを1敗以下に抑えれば史上初の勝率9割超えが達成できる。大記録が達成されるかにも注目が集まる。

里見、上田ともに何でも指すため、戦型予想は難しい。比較的対抗形や相振り飛車を好む印象はあるが、矢倉や横歩系統の将棋を指すこともある。飛車を振る筋の候補も多く、全局まったく違う戦型になる可能性もありそうだ。女流のタイトル戦でオールラウンダー同士の対戦は珍しく、バラエティーに富んだ戦型を楽しめるのもこのカードの魅力だ。

次の記事では挑戦者のインタビューをお送りする。

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