将棋のプロ棋士ってどうやって稼いでいるの?その秘密は「七大タイトル」にあった!

将棋のプロ棋士ってどうやって稼いでいるの?その秘密は「七大タイトル」にあった!

ライター: 直江雨続  更新: 2016年09月12日

「将棋のプロ棋士ってどうやってお金を稼いでいるの?」

将棋に詳しくなければ、意外と知らないのではないでしょうか。プロ棋士はスポンサーが主催するプロ公式戦(棋戦といいます)で対局することで対局料をもらっています。

プロ公式戦は2016年8月現在17個ありますが、このうち「竜王戦」「名人戦」「王位戦」「王座戦」「棋王戦」「王将戦」「棋聖戦」が七大タイトルと呼ばれています。

これらのタイトルを獲得すると高額な優勝賞金を手にするとともに、渡辺明竜王佐藤天彦名人のような肩書を名乗ることができるようになります。

タイトルホルダーになると将棋界を代表する顔として、イベントへの登場が増えたり、様々なメディアの取材を受けたりします。それが彼らの稼ぎにもつながっているのです。

タイトル戦はプロ棋士にとって夢の舞台。
ここでは、将棋界の1年をタイトル戦を追いかけながら紹介していきます。

春は羽生・森内...だったが、歴史が変わった!?

名人戦

名人戦は例年4月から6月にかけて七番勝負で行われます。
将棋ファンは新年度の始まりを名人戦とともに迎えるのです。

名人戦は将棋界で一番長い歴史があるタイトル戦。
「名人」は400年以上続く伝統ある称号で初代名人の大橋宗桂は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕えていたのだとか!

さて、名人戦の特徴はまず2日制(1局の将棋を2日間かけて戦う)で持ち時間が各9時間と七大タイトル戦で最長である点です。

長時間の戦いとなるため、最も過酷なタイトル戦と言われています。棋士の持久力や耐久力が問われます。

そして近年の名人戦にはある特徴がありました。

なんと、2002年から2015年まで名人の座に就いていたのは羽生善治三冠か森内俊之九段のどちらか二人だけなんです。さらにこの間に羽生対森内というカードだったのが9回という圧倒的な名人戦への登場率の高さ。

日本将棋連盟の谷川浩司会長が「羽生森内は春の季語にしてもいい」と語ったくらいに、将棋ファンの間では名人戦といえば羽生森内の戦いというのが定着していました。

しかし、2016年の今年、ついに歴史が動きました。

28歳の若き挑戦者佐藤天彦八段が羽生善治名人に挑戦し、4勝1敗の成績で名人の座を奪取したのです。

長く続いた羽生森内時代が終わってしまうのか、来年名人戦の舞台にいったい誰が登場するのか、将棋ファンは固唾を飲んで見守っています。

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第74期名人 佐藤天彦

棋聖戦

名人戦で幕を開けた新年度、続いて始まるタイトル戦は棋聖戦です。
例年6月から8月にかけて五番勝負で行われます。棋聖戦の持ち時間は各4時間、1日制で行われるタイトル戦です。

近年の棋聖戦はある二人の棋士が連覇を続けていました。
2002年度から佐藤康光九段が6連覇。2008年度からは羽生善治三冠が9連覇中!

今年、2016年度はまだ23歳の永瀬拓矢六段が羽生棋聖に挑戦し、大いに善戦しましたが、最後は羽生棋聖の防衛で幕を閉じました。

果たして羽生棋聖の連覇は何年続くのでしょうか。

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第87期棋聖 羽生善治(9期連続)

夏の絶対王者。羽生善治!

王位戦

王位戦の始まりは将棋ファンに夏を告げます。

7月から9月にかけ一年で一番暑い時期に行われる七番勝負。持ち時間は各8時間の2日制です。

王位戦においてもやはり羽生善治三冠の強さが際立っていますが、2007年には深浦康市九段が羽生三冠との勝負を4勝3敗で制し、35歳にして初タイトルを獲得したことが大きな話題となりました。

特にこの時の最終局(第7局)は終盤で深浦九段が指した▲7七桂が「10年に1度の妙手」と絶賛され、この年度の名局賞にもなりました。将棋ファンなら一度は盤に並べて鑑賞したい伝説の一局です。

また2010年度には得意戦法の四間飛車穴熊を引っ提げて23歳の広瀬章人八段がタイトルを奪取。しかし、やはり羽生三冠は強かった。

翌年の2011年度に広瀬八段から王位を奪取するとそこから5連覇!
今年は木村一基八段の挑戦を受けて、現在防衛戦の真っ最中です!

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第56期王位 羽生善治(5期連続)

最強羽生王座伝説と永世竜王渡辺明

王座戦

将棋ファンに夏の終わりを告げるのが王座戦の開幕。
9月から10月に五番勝負で争われる王座戦、持ち時間は各5時間の1日制です。

王座戦といえばとにかく羽生善治三冠の強さが際立っている棋戦です。

1992年度に王座のタイトルを奪取した羽生三冠はその後、2010年度までなんと19連覇!
2011年度は渡辺明竜王に王座を奪われますが、翌年には奪い返し、そこからさらに4連覇中。

羽生三冠のこれまでの王座獲得は通算23期と恐ろしいまでの強さです。

今45歳の羽生三冠は人生の半分以上王座なんですが、ちょっともう意味がわかりません。

ちなみに今年の棋聖戦挑戦者の永瀬拓矢六段は1992年生まれなので、永瀬六段が生まれた年にはすでに羽生三冠は王座だったわけで...。

近年は中村太地六段、豊島将之七段、佐藤天彦八段(段位は当時のもの)と、若手実力者の挑戦を受けることが多く、フルセットの死闘を勝ちきって防衛を続けています。今年の挑戦者は2014年度に竜王位を獲得した糸谷哲郎八段というこれまた若手の実力者。

伝説とも言える羽生三冠の王座戦の強さ、連覇がいつまで続くのか、ファンの注目が集まっているタイトル戦です。

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第63期王座 羽生善治(4期連続)

竜王戦

秋は竜王戦の季節。

竜王戦は七大タイトルの中でも最高峰かつ最高額の賞金(優勝賞金4200万円!)を誇る棋戦です。

例年10月から12月に七番勝負で行われ、持ち時間は各8時間の2日制。

2004年、当時20歳の渡辺明竜王が森内俊之九段から竜王を奪取し、そこから破竹の9連覇!
まさに竜王といえば渡辺明というくらいにこの棋戦での強さを見せつけています。

中でも2008年に挑戦者に羽生善治三冠を迎えての防衛戦は勝ったほうが『初代永世竜王』となる歴史的なタイトル戦となりました。

結果は羽生三冠の3連勝の後、渡辺竜王が4連勝という大逆転。将棋界では七番勝負での3連敗からの4連勝での防衛は歴史上初めての出来事でした。渡辺竜王は2013年度に森内九段に敗れて竜王の座を奪われますが、昨年再び竜王の座に就きました。

渡辺竜王の連覇はこの先も続くのでしょうか。

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第28期竜王 渡辺明

冬将軍渡辺明と郷田真隆

王将戦

1月。新年を迎えた将棋ファンにとって、王将戦の開幕は冬の恒例行事です。

王将戦は2日制の七番勝負で持ち時間は各8時間。1月から3月にかけて行われます。

近年の王将戦は2004年度から2008年度まで羽生三冠が5連覇をしたあとは、長期の連覇はなく、久保利明九段、佐藤康光九段、渡辺明竜王、郷田真隆王将がその座についています。

特に2009年度の王将戦は関西所属で振り飛車党の久保九段が5回目の挑戦で初めて羽生三冠からタイトルを奪取したという点でファンには印象深い年となっています。

その2009年度の王将戦最終局(第6局)は久保九段のゴキゲン中飛車▲5八金右急戦から終盤に奇跡的な順で久保玉が詰まず、タイトル奪取となった歴史的な名局となりました。

この将棋の終盤の3連続限定合駒(△7三銀合、△5三銀合、△8五角合=この手のみ変化に出てくる合駒=)を行方尚史八段は『トリプルルッツ』と評しました。

今年は3連覇をかけての郷田真隆王将の防衛戦となります。
挑戦者はいったい誰になるのでしょう。

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第65期王将 郷田真隆(2期連続)

棋王戦

2月から3月と冬の寒さが一番厳しい時期に行われるのが棋王戦です。
棋王戦の持ち時間は各4時間、1日制の五番勝負で行われます。

直近の10年、棋王の座についたのは佐藤康光九段、久保利明九段、郷田真隆王将、渡辺明竜王で、羽生三冠の名前がありません。1990年度から2001年度までは12連覇しているんですけどね。

この棋戦は永世称号である「永世棋王」の資格が『棋王位を連続5期以上保持』で与えられるため、永世棋王の有資格者は羽生三冠だけです。

今期の防衛戦で渡辺棋王が防衛すると連続5期となるため、史上二人目の永世棋王の称号が懸かった大一番となっています。
いったい誰が挑戦するのか、永世棋王の誕生となるのか、要注目です!

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第41期棋王 渡辺明(4期連続)

将棋ファンにオフシーズンはない。

4月からスタートして、翌年の3月まで、将棋界の四季はタイトル戦とともに過ぎていきます。

将棋ファンになって気づいたのですが、将棋界っていわゆるオフシーズンが無いんですよね。タイトル戦を夢中で追いかけていたら、気が付いたら1年が過ぎていて、また名人戦の季節だったというのが毎年の実感です。

つまり、1年中見せ場だらけ。将棋とともに過ごす充実の季節を、あなたも過ごしてみませんか?

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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