ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2016年09月23日
寄せ、凌ぎ、終盤戦で最も大事な駒である金。斜めに利く銀ほどの機動性はありませんが、横、後ろに利いて安定感のある強力な金駒(かなごま)です。
普段は玉の側近でありながら、持駒になると大きな存在感を示します。実戦で使えるような格言も多く、格言とセットで見ていきましょう。
第1図を見てください。それぞれ頭金、腹金で詰み上がった形です。何だこれは、と言われそうですが、終盤での寄せ合いはこのように金打ちで詰み上がる形を目指す場合が多いです。もちろん実戦ではその手前で防ぐように相手も指してきますが、目指すべき詰みの基本形です。このイメージを頭に焼き付けておけば、終盤での読みを省略することができるでしょう。「金はトドメに残せ」と格言にもあります。
【第1図】
金の弱点は斜め後ろに下がれないことです。自分の駒の前に出たとき、退路がないということになりがち。「金は斜めに誘え」という格言があります。
第2図は金矢倉の部分図。ここでは▲3四歩と打つ手が厳しい攻め。△同銀も△同金も▲3五歩で金駒を取られてしまいます。4三の駒が銀の「銀矢倉」なら問題ありませんが、この場合は金の弱みが出てしまっています。後手はこうなる前に△3四歩と打ってキズを消さないといけませんでした。
【第2図】
金は底歩と組み合わせることで、強固なバリケードとなります。二段目の金と底歩は連結していて非常に堅く、特に飛車によって横から攻められている場合は攻めを遅らせることができます。
第3図は対抗形の終盤戦。この△5一歩が堅く、後手陣が引き締まりました。一方先手にも▲5九歩の底歩があるため、こちらも堅いです。ただし、そんな堅い金底の歩にも弱点があります。それは歩が利かないことを突いた香打ちですので、気を付けましょう。
【第3図は△5一歩まで】
金は斜め後ろに利かないことが弱点と書きました。そんな弱点をカバーできるのは自陣の一段目で、後ろのマス目がないためスキがなくなります。格言に「金は引く手に好手あり」や「一段金に飛車捨てあり」と言うものがあるように、金が下段に来た形は非常に安定しています。
金使いの名手、大山康晴十五世名人の名人戦から。第4図で後手大山十五世名人の7二金は、序盤で先手の速攻を防ぐために上がったもの。局面の流れが落ち着いたので、ここから△7一金▲3六歩△6一金が自陣を安定させる手順。玉から離れていた金を引き、さらに近付けることで自陣を引き締めました。終盤もこの金の存在で後手の攻めを余しました。
【第4図は▲2六歩まで】
最後に、金の手筋ではありませんがその重要性を示すために第5図を紹介します。先手玉はこの瞬間に安全なので一気に寄せきるチャンスです。ここから▲9四桂△同香▲9一角△同玉▲6一馬△同銀▲9三銀が必殺の寄せで、一気の受けなしです。最終手で△8一銀には▲9二香△同銀▲8二金までの詰みがあります。
金を持っていれば▲9三銀に△8二金や△9二金で簡単に受かるのですが、銀では受からないという一例です。接近戦に最も強い駒である金は、寄せ合いの要です。
【第5図】
以上、5つの格言とともに金の手筋を見ていきました。金を使いこなせれば終盤力が向上すること間違いなしです。今回は紹介できませんでしたが、相穴熊戦などは金と角の価値が逆転することすらあります。金の手筋をマスターして、寄せ合いに強くなりましょう。
ライター渡部壮大